06 天正宮殿の恐ろしい天井裏
【前回より】
「あそこのミーティング室には、音声カメラが付いてたはずね。
すぐ視聴できるようにしてちょうだいって、警備室に連絡して!」
/////
内線電話のスピーカーモードで、警備担当信者の声が聞こえてきた。
ーあぁそれはちょっとできかねますね。
はい、そうなんですよ。
あそこの機材はだいぶ前から不具合が起きていまして。
いえ、修理はしたのですが…
何度調整しても、すぐに何かで不具合が…
こちらとしてはですね、誰か幹部の方がですね、
ええ、誰かそういうことに詳しい方がいましてね、
どうも作動させないようにしているのではないかなと…
そこでツルコが、いきなりお付きから受話器をひったくって叫んだ。
「なんで、早くそれを、私に報告しないんだよッ。このハゲ〜!」
ーあっ おっお母様? … い、いえ、その…機材が老朽化しているだけかもわかりません…です。なんせもう10数年経っておりますので、はい、他の部屋のもガタがきておりますんで。それはそのぅ、予算が… すっすいません…
「ふん、役立たず!」
ツルコはガチャッと受話を叩き切った。
…私が献金を流さないと何もできないの、ほんとに役立たずだわ。
それにしても、カメラやマイクが作動しないように?
切っているって?一体誰が?
あの人たち、やっぱり、ますます、あやしいじゃないの。
特に最近、幹部たちがコソコソ動き回っているように感じる。
今日も館内を、遠くに三々五々、集まり散じるのを見かけた。
ツルコが近づくと、いつの間にか消えている。まるでゴキブリだ。
ヨン舫もいたわ。何かあったの? 気のせいかしらね…
そのとき先程の「なんせもう10数年経つ」という警備員の物言いがふと気になった。
…この館が完成したのが2006年だから、そうか、もう16年経ったのね。
そりゃ私が新しい宮殿を欲しくなったのも無理ないわ。
あの頃はまだ夫が生きていて、120ヵ国から王冠が届いたものだわ。
あっ、そうだ!
建設当時たしか夫は、こんなことを言ったと思い出した。
「居室の天井はニッポンの城のように、ニンジャ屋敷のようにしようぜ。我々はニッポン文化を凌駕するんだよ!」
その時ツルコは、(またこの人はゴチャゴチャとロクでもないことを言い出した)と思ったものだが、今となってはその仕掛けが使えるかもしれない。
すぐに、普段使わない引き出しをかき回し、見慣れないリモコン装置のようなものを取り出した。
あれ、動かない。
「ちょっと、カヨさん、来て。あなた、これ分かる? なんとかしてちょうだい」
お付きのカヨは、警備室への電話の件で怯えて部屋の隅にうずくまっていたが、すぐにやって来て、リモコンを触ると電池を取り換えた。
するといきなり、天井の隅がキーと小さく開いて、そこから銀色のハシゴがスルスルと降りてきたのだ。
ツルコは駆け寄って、その金属製のハシゴに手をかけ足を掛け、力一杯揺すってみた。
「大丈夫そうね」
そしてそのまま、少しづつ、そろそろと上に登っていった。
真ん中程で、手と脚がブルブルと震え出し、ハシゴは細かくカタカタと揺れた。
カヨは呆気に取られたように眺めていたが、震える声で見上げ、
「何なんですかぁ、お、お母様、大丈夫ですかぁ」
「む… 」
ツルコは無言で、武者震いしながらスローモーションで登っていく。
遂に天井に開いた暗闇に頭が吸い込まれ、お尻まで見えなくなるかという所で、大きなお尻がブルっと震えた。そして再びノソノソと降りてきた。
「は〜、私には無理よ。歳だからね、途中で帰って来れなくなりそうだわ」
息を切らせてそう言うと、カヨの方へ向き直って怖い顔をした。
「今度は、カヨさん、あなた行きなさい!」
「えーっ」
ツルコの居室から階段の方向へ、2つ先の部屋がミーティング室になっている。
そこの天井に裂け目ができて、光が漏れているはずよ。
中の様子を報告して。録音してきて。失敗は許されない。
ICレコーダー、カメラ付、懐中電灯付。ほら持って。時間がない。
「えーっ」
お尻を叩かれて、カヨはハシゴを登って行くしかなかった。
(つづく)
ツルコ総裁の豪華な居城。夏の天正宮全景。

参考
1千億円の宮殿、240個の王冠/龍明小説11-1
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2023/04/30 (日) [ツルコ小説 紡ぎます]
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