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ツルコ小説 紡ぎますの記事 (1/1)

01 ツルコ小説 紡ぎます〈プロローグ〉



   01 ツルコ小説 紡ぎます
          ープロローグ


巨大なスタジアムの豪華な専用控室で、ヘアメイクを整えた鶴ノ亀子はじっと鏡を見た。
緊張のせいか、少し顔色が悪い。

…ずいぶん老けて見えるわ。
「もう少し紅を入れてちょうだい」
「はい、総裁様」
お付きの者がすかさず駆けよった。

(鶴ノ亀子、略して)ツルコが17歳の時、評判の悪い新興宗教の教祖のもとに嫁いできたのは、もう50年以上前のことだ。
…歳を取るのも当たり前だわ。

強いカリスマ性を持って教団を率いてきた夫の文ノ龍明は、この日を待たずに、去年の夏の終わり、92歳でこの世を去った。

生前彼は、教団の歴史に残る『基元節』の日には、自分たち夫婦がいよいよ人類の真の父母として神の実体となると説教等で何度も語っていた。
そして、その日までに地上天国が発動する、すなわち史上初の神の国家が実現する、と謳った。

教団は信者たちに「それまでの辛抱だから」と、無理な金集め・人集めに散々駆り立ててきたのだが、その張本人が呆気なく老人性肺炎で亡くなってしまったのだ。

教団は、まだ見ぬ ”平和と統一の神の国“ を「天一国」と名付け、韓国の山奥に国会議事堂そっくりの立派な白亜の宮殿を建設していた。
また、独自の国旗をデザインし、教団唱歌の一つを国歌に選定。二世の若者たちを召集して、自前の治安警察隊まで作っていた。
が…当然の如く、彼らの言う”神の国“が世界に姿を現す気配は全くないのだった。

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02 悲しみのツルコ神学



  02 悲しみのツルコ神学



教祖である夫が亡くなって数ヶ月後、基元節という教団の大きな行事を主宰したツルコ夫人。

その後、世界の信者たちを叱咤激励し、変わり映えしない実現不可能な高い目標とノルマを課して、一息ついた。

ソウル江南区のいつもの高級宝石店にも出入りしたが、心にポッカリあいた穴がある。

これまで表向きは、再臨主の妻そして真の母として崇められ、組織内では「真のお母様」として奉られてきた。
が、実際は「真の母は、いつでも取り替え可能だ」と夫から言われてきたのだ。

実際、取り替えられそうになったこともあったのだ。しかも何度も。
認知した婚外子、しなかった婚外子、こもごも周りにごろごろいた。

ある時、食卓の席で、息子から、お母さんよりあっちのママの方がいいよと言われたことがあった。
あれは確か、何かのことでツルコが生意気ざかりの息子をたしなめた時のことだ。
息子は「崔ママの方が優秀だよねッ、アボジ」と言って、父親の方を見た。

夫は別段否定もしなかったはずだ。その場は、ツルコだけが不機嫌に黙り込んで、何でもないように時間は流れていった。

崔ママとは一体誰を指していたのだろう。なにしろ、思い当たるだけでも夫に関わる崔姓の女は片手に余った。

ーしいていえばあの2人だわ。1人は頭脳が優秀、もう1人は家柄が上等。
ーあの時、あの子はどっちの女ことを言ったんだろう?
ー息子と夫はいつでも共謀して私を貶める…… なんで、なんで?
ーどっちの女だろう? どっち? どっち?
あの蔑みの残酷な時間を思い出すと、今でも頭がおかしくなりそうだ。

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03 あの人は過ちとモラハラの限りを尽くし…




  03 あの人は過ちとモラハラの限りを尽くし…





次の訓読集会でのこと。
教団の草創期から文教祖に付き従ってきた長老が口火を切った。

「お母様、あなたがおっしゃる独生女、独り娘とは何なんですか。
メシアの妻をそう言うならば、再臨のメシアであるお父様が最初に結婚されたお方も独生女だったはずです。そして2番目の方も…。そうなれば独生女は何人もいて、独り娘ではないはずですが?」

ツルコは答えた。
「ほんとにあなた方は何も分かっていないのです。もちろん独生女は一人です。この私、一人に決まっています。産まれる前から証があります」

「しかし、それでは…」
長老は腑に落ちない顔をしている。

「……だからー そういう、私との聖婚以前の女性関係が間違いだったと言ってるの。私は結婚前からそのことを全部知っていたけど、どうにかしてあの人の過ちを解決してあげようと決心して結婚したんじゃないの。その後も過ちを犯す夫に忍耐して、苦労してきたんじゃないの。

「…で、その1番目、2番目、3番目なんたらという女たちは一体どうしたの。結局みんな逃げたじゃないの。ご立派な家庭を捨てて飛び込んできた女先生も、年寄り過ぎてとっくに死んじゃったし、アハハハ! 

「…オッホン、とにかく、私とは心構えが違うのよ。最初から違うのです。独生女だからです。

それを受けて、そばにいた神学教授がボソボソとした声で加えた。
「えー、それについては、神学的にも説明できますが、お母様はまだ時ではないとおっしゃり、明かしておられないのです」

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